いつものような他愛のない話で笑ったあと、沈黙が訪れて、その人が思い出したように本の話をしだした。
「草枕」って知ってるだろ?と。
驚いた。え?なんで?
その人がなぜ突然「草枕」を話題にするのか。どちらかといえば理系で、あまり日本文学に興味があるようでもなかったから。いや、漱石の「草枕」なら誰が読んだっておかしくないけれど、なぜいま、なぜ今日この時に?
最近そこに書かれた一節をどこかで目にして、ずっと心に懸かっていたということだった。
私は驚いてわくわくした。
その人がその一節について語るのを聞きながら小躍りするような心持ちだった。
いまバッグの中からその「草枕」を取り出して見せたら、きっとびっくりするよね?その顔が想像できる。
話の腰を折りたくはないけれど、驚く顔が見たい。
そう、ほんとうにバッグの中に「草枕」を持っていた。
同じことを思ったことがある。
昼間の花火ではなく、「同じ星座を描く」という風に。空にはギリシャ神話の星座図のように星と星を結ぶ線は引かれてはいないけれど、常に満天の星があって、「強く求める気持ちがあれば」そこにしばしば同じ星座を描いてそれを発見するのではないか、と。
心理学でいうconstellationに近いのかもしれない。
恋をしていると、これはdestinyと言いたくなるかもしれないけれど、実はありふれた偶然。それでもそれが強く求められたものならば、束の間わくわくしてもいいよね。
「草枕」って知ってるだろ?と。
驚いた。え?なんで?
その人がなぜ突然「草枕」を話題にするのか。どちらかといえば理系で、あまり日本文学に興味があるようでもなかったから。いや、漱石の「草枕」なら誰が読んだっておかしくないけれど、なぜいま、なぜ今日この時に?
最近そこに書かれた一節をどこかで目にして、ずっと心に懸かっていたということだった。
私は驚いてわくわくした。
その人がその一節について語るのを聞きながら小躍りするような心持ちだった。
いまバッグの中からその「草枕」を取り出して見せたら、きっとびっくりするよね?その顔が想像できる。
話の腰を折りたくはないけれど、驚く顔が見たい。
そう、ほんとうにバッグの中に「草枕」を持っていた。
偶然の一致というのは、ひょっとして実はとてもありふれた現象なんじゃないだろうかって。つまりそういう類のものごとは僕らのまわりで、しょっちゅう日常的に起こっているんです。でもその大半は僕らの目にとまることなく、そのまま見過ごされてしまいます。まるで真っ昼間に打ち上げられた花火のように、かすかに音はするんだけれど、空を見上げても何も見えません。しかしもし僕らの方に強く求める気持ちがあれば、たぶんそれは僕らの視界の中に、ひとつのメッセージとして浮かび上がってくるんです。その図形や意味合いが鮮やかに読み取れるようになる。そして僕らはそういうものを目にして『ああ、こんなことも起こるんだ。不思議だなぁ』と驚いたりします。本当はぜんぜん不思議なことでもないにもかかわらず。
「偶然の旅人」村上春樹
同じことを思ったことがある。
昼間の花火ではなく、「同じ星座を描く」という風に。空にはギリシャ神話の星座図のように星と星を結ぶ線は引かれてはいないけれど、常に満天の星があって、「強く求める気持ちがあれば」そこにしばしば同じ星座を描いてそれを発見するのではないか、と。
心理学でいうconstellationに近いのかもしれない。
恋をしていると、これはdestinyと言いたくなるかもしれないけれど、実はありふれた偶然。それでもそれが強く求められたものならば、束の間わくわくしてもいいよね。
コメント
「恋は時間に垂直に、愛は時間に平行に」
驚く顔にワクワク、たまりません
稲垣足穂、好きです。たむらしげるのイラストで知ったのがはじめですが。