「ミリキタニの猫」
https://www.youtube.com/watch?v=dqcOZiec_OI


映画を観ていて、そこにニューヨークのふたごの貿易センタービルが写っていると、ああ、と思う。毎回。
この作品は911前なんだな。この画を撮っているとき、誰もこのビルの運命を知らなかったんだなと。不思議な気持がするのだ。毎回。
 
だけど、失われた風景はツインビルがはじめてじゃない。
灰塵に帰した広島の町。
失われた人生ってことなら、日系人の強制収容、市民権破棄の強制。
 
ミリキタニは広島も日系人強制収容所も知っている。
その彼が911のあと、イスラム系の住民を心配する。同じことがおこる、と。
イラク報復のニュースに「戦争はいかん。5秒で灰だ」とつぶやく。

風景や人生が奪われるってことに、ひとはその日まで気づかない。
だから何度も繰り返す。
なんで私たちは気づかないんだろう。


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このドキュメンタリー、撮影者と被写体の関係がとてもいいなぁ。
 
911を機に、監督のリンダ・ハッテンドーフの部屋に世話になるんだけど。
なにせ「グランド・マスター」を自認する彼だからわがままそうなんだけど、リンダはとてもおおらかに受け止めている。うどんを温めることもしないミリキタニに、足元にじゃれつく愛猫にかこつけて軽やかに言う。
「私が居なきゃ死んでしまう訳じゃあないでしょ。健康で自立した大人なんだから。かまってほしいだけなんでしょ」
それを聞いてミリキタニがつぶやく。「リンダ、リンダ、リンダ…」
ちょっと憮然としながら、でも照れたような表情がちらり。


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ミリキタニはアメリカにとても怒っていたんだと思う。
サクラメント生まれの彼の市民権を捨てさせて、画家として生きる道を閉ざしたアメリカに。故郷の広島を破壊したアメリカに。
だけど芸術家であり続けるというのは、ほかのどんな属性とも関係がない。
「絵を売って食ってきた」
「引退なんてありえない。心臓が止まるまで描く」
日本の絵と西洋の絵とを繋ぐ新しい芸術を生み出すことを目指した彼の怒りと誇り。
やっぱりミリキタニはグランドマスターだ。



渋谷・ユーロスペース



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