読み終えた翌日も一日ストーナーの人生が心から去らなかった。
なんだろう、人生の、「どうしようもなさ」がひたひたと胸に迫るようで。
99.99%の平凡な人間にとって、人生の大半はうっすらと幸せではない。かといって不幸なばかりでもない。歯切れの悪い表現になってしまうのは、人生には「どうしようもなさ」が詰まってるからかな。
波乱万丈でも、成功物語でも、宿命の悲劇ですらない、なのにストーナーの地味な人生から離れられなくなる。彼の平凡さは読む者のなかにも十二分にある平凡さだからかな。
ストーナーの一日一日に積み重なる塵のような小さな悔恨や無力感、疲労、諦めが読みながら染みてくる。降り積もる塵は人生の重み。人生って、こんなもんだし、どうしようもないし、少し哀しい。
でも、だから、小さな情熱や啓示、出会いや思慕、驚き発見……それが慰めになる。
小さな小さな。歓びと表現するのも大げさなような、つかの間の慰め。儚くて牡丹雪のようにすぐに消えてしまうものだし、そんな慰めさえまた人生のやるせなさを思い出させるだけなんだけど。
「ノスタルジア」の主人公が、手の中のロウソクの火が消えないように歩く姿をなぜか思いだした。
最初の刊行は1965年。
日本での出版は2014年。
翻訳は東江一紀。これが最後の翻訳だったんだね。
50年も前に書かれたものだけど、いま、50代で、美しい日本語でこれを読めてよかったなぁと思う。
コメント
ドン・ウィンズロウ、最近読んでなかったので「犬の力」読もうかなと思ってます。
東江一紀訳ではないけれど「ザ・カルテル」もはにゃ。さんのレビュー読んで気になってます。
ドン・ウィンズロウは、メキシコの麻薬戦争についてもうほとんど人生傾けてる勢いの様ですし、「犬の力」と「ザ・カルテル」は順番に読まれることを心からオススメします。3番目の作品が確か今年の春にアメリカでは出るとつぶやいていたと思います。今は確かニューヨークの警察の腐敗を描いた作品を書いているだか、もう出るだかだったです。
「ストリート・キッズ」から思えば、遥か彼方にきてしまいましたねぇ・・・・。ドン・ウィンズロウの作品もこの世界も。
「犬の力」、はにゃ。さんのレビューは読んでいたのでとても気にはなっていたんですが、「ストリート・キッズ」の世界から「遥か彼方に」来てしまったようで、手を出せないでいました。「ストリート・キッズ」の繊細なハードボイルドの世界が好きすぎて。
ニールとグレアムのいた世界とは別の世界の物語と思って読むのがいいのかな。