「牯嶺街少年殺人事件」*
夕闇の蓮池。たくさんの葉を広げる睡蓮。青い、瑞々しいエネルギーが隠されているような薄暗い画面。ほとりで抱き合う恋人たち。からかいながら駆け抜けてゆくふたりの少年。停電。少年グループの諍い。教室を出て行く少女。
大きく育った樹が緑の屋根をつくる街道。ゆっくりと走る自転車。白いシャツ。白い日傘。南国風のアーチ、白い石造りの校舎。日本風コロニアルな家屋。風に揺れながら家に緑陰をつくる大きな樹。
ガジュマルの根瘤に腰をおろす少女。少年。
ボーイソプラノで歌うプレスリー。
押入れベッドに籠って、盗んだ懐中電灯で日記を書く少年。夜のテニスコート。撮影所の屋根裏。夜闇に煌めく果物売りの店の灯り。氷菓売りのネオンサイン。
停電。
長く続く戦車の隊列。足を止めて見送る少年と少女。見慣れた風景。
日本刀。銃。停電。襲撃。
尋問。氷の塊。
停電―――世界はたやすく暗転する。



白いブラウス。濃紺のスカート。白いソックス。白いズック。
短く切りそろえた黒髪。
14歳、制服のファムファタル。シャオミン。



アジア太平洋戦争終結後の、1960年頃の台湾の複雑な政治情勢を予習して観直すのは二回目からでもいい。

4時間通して観終って、思い浮かぶのは
「A Brighter Summer Day」というこの映画の英語タイトル。

冷戦の最前線、戒厳令下の台湾。晴れやかに見える南国の風景の後ろには、堅固な壁があって、ひっそりとした息苦しさ生き難さを大人も、少年たちも感じている。それでも。悲劇的な結末ではあっても、それでも。

思い出す14歳の夏の日は輝かしい。

プレスリーにあこがれる少年が歌う「 Are You Lonesome Tonight 」の歌詞
――― Does your memory stray to a brighter summer day
このフレーズがこの映画には似つかわしい。









コメント

hana
2017年12月23日22:15

美藤さん^^

『ブレードランナー』・「パターソン』そして、『牯嶺街少年殺人事件』はこの秋観たかったのに果たせずでした。
心残りだわ……。

美藤
2017年12月24日0:12

hanaさん

『牯嶺街少年殺人事件』は4時間の上映時間になかなかタイミングが合わず劇場公開を逃してしまったのですが、観に行った友人がDVDを即買いしてくれたので、借りて家で観ました。4時間、邪魔されたくなかったので、用事を全部済ませて12時過ぎからの深夜上映で(笑) いろんなシーンを観返したくなるのでDVD、良かったです。

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