「人はかつて樹だった」
 
 

  
  木は人のようにそこに立っていた。

  言葉もなくまっすぐ立っていた。







雷に打たれた木を見たことがある。

高校へ向かう通学路の、おおきな杉の木だった。
夏の嵐の翌日、梢を失い太い幹をふたつに裂いて立っていた。
大学生になり、就職し、家を出た、その時もまだそこに立っていた。
雷に焼かれたてっぺんは黒ずんでいたけれど、太い幹の根に近い部分はたくさんの葉に覆われて緑色だった。
実家に戻るたびその木を見た。
その木が伐られて更地になったのに気づいたのは40代の終わり。
雷に打たれてふたつに裂かれて30年生きていたことになる。

この詩集のカバーに描かれた木に、すこし似ている。
ドイツの画家、フリードリヒの描いた木。タイトルは「孤独な木」というそうだ。








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