3.11のことを考えるとき、かならず思い出す映像がある。
最初の大きな揺れが終わって、3時をまわった頃。津波が東北の海岸線に到達し始めた頃。どこかのテレビ局のヘリから送られてきた映像。
いち面の、たぶん田んぼ。まだ水の入っていない田んぼを突っ切るように通っている道の上に、大きなトレーラーが停まっていた。そのトレーラーの運転手だろう男の人が携帯を耳に当て、空の荷台の上を行ったり来たりしていた。なぜそんなところで停まってしまったんだろう。地震の揺れで道が崩れたのか、、脱輪でもしたのか、、理由はわからない。津波警報が出ていることわかっただろうか、、。テレビ画面のまんなかにトレーラー、画面の上は海岸線だった。怖かった。早く逃げてと思った。早く早くと。誰か教えてあげてと思った。ヘリに乗ってる人、教えてあげてと。車が動かせないなら捨てて走って逃げて、早くと。携帯は誰かと繋がっているの?繋がってるなら早く逃げてと教えてあげてと。
中継の画面が切り替わった。
その後は、東京のアナウンサーと津波到達予想の赤い線が点滅する日本列島の地図。それから、たくさんの中継ヘリから送られてくる、ぶあつい水の壁が土地をなめつくしてゆく映像が延々と続いてテレビの前を動けなかった。
あのトレーラーの男の人、逃げられただろうか。誰か教えて、と思う。
あの時、早く逃げてと思った。一緒にテレビを見ていた父もそう思ったろう。日本中のひとがそう思って見たはずだと思う。早く逃げてと。
あの男の人は、数千万人が見ているなんて知らなかった。数千万人が目撃して、逃げろと念じても届かない。届かなかったけど、でも、でもでも、逃げ延びていてほしいと、8年経っても思ってる。どこかで、無事でいてと。
あの映像を忘れることは一生ない。
コメント