「新宿御苑森の薪能」のチケットを取っていた。
昨年、御苑で観た「国栖」がとても良かったので、今年も観たいと思った。
https://momijimomiji.diarynote.jp/201810180151255398/
また、大鼓のターーンと響く音を、謡の言葉を、虫の声を風の音を聴きたいと思った。
なのに残念。
南の海上を進む大きな台風21号の影響で天気が安定しなくて、当日になって会場が変更になった。
薪能はこれまで雨で何度か中止になっていて、昨年から代替えのホールを用意するようにしたとのことだった。昨年は御苑で演じられたので、今年が初の新宿文化センター。御苑の薪能を観に行く心持からしたら、これは、中止にしてくれたほうが良かったかな。
ホールの席は2階正面最前列で、舞台が良く見える良い席だったんだけど、能舞台を上から俯瞰するポジションって、能の空気感を味わうには、どうなんだろう?って思う。
能楽堂には橋掛かりから本舞台まで屋根がかかっているけれど、普通のホールだからそれがなくて、すっかすかに見通せてしまう。御苑なら、それを補う自然の舞台装置がふんだんにある。夜空が能屋根で、大きな樹々が老松で、少ない照明が陰影を作って、虫の音風の音、都会の喧騒までが謡に唱和する。
平面的に明るいホールの能舞台は、やり損なったポップアートみたいで…は、言い過ぎか?(笑)
演目が「安達ケ原」で、これって怖くて悲しい話なんだけどね。
最初に囃子方、謡方が舞台に上がったあと、後見ふたりに布で覆われた庵室が静々と運び込まれる。なかにシテの演じる老女が座しているとわかる。
あとで、一緒に行った友人が「もう老婆が入った試着室にしか見えなくなって」と言っていたのがウケたよ。た、確かにーー(笑)
あのパッカーンと開けたホールではシンボリックな作り物が舞台装置として活きない。日本の芸能には、深い陰影が絶対に必要なんだなと思った。それから、能舞台は見下ろしてはいけないというのも思った。
「安達ケ原」、一番ホールに似合わない演目だったかもね。
私はなるべく視覚は意識から飛ばして、案外聴きとれる謡と演者の人たちの所作だけに集中してたので、老婆が薪を拾いに出て橋掛かりの途中で振り向くところなんか「怖い…」と思えたのでまあまあ良かったけど。
でもでも、安達ケ原=老婆の試着室 に完全脳内変換されてしまったかも(汗)
2019.10.24 第33回 新宿御苑 森の薪能
新宿文化ホール
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