10代の終わりころに、父と諍いになったことがあった。

そもそも父の勘違いで、やってもいないことを問いつめられた。
なにを言われているのかわからず、ただドキドキした。
父の誤解とその理由が腑に落ちたら、ものすごく怒りが湧いた。
憤った、というべきか。

父はいきなり怒鳴る人ではなかったし、そのときも暗く静かに問い質していたのだけれど、その詰問自体に腹の立った私は、父をもっと怒らせたいと思った。
父の誤解は解けていたのだけれど、これを言ったらおしまい、宣戦布告になる、というようなセリフが頭に浮かんだ。それを言ったらきっと手が飛んでくると想像もできた。それでも私がどんなに怒っているか。おなじだけ怒らせたかった。

そのセリフを大きな声で吐き捨てて、ぱっと立ち上がって階段を駆け上がり自室に入って鍵をかけた。もちろん父は怒って声を荒げながら追ってきたけれど、10代と40代では勝負にならない。
ドアを叩きながら「開けろ!」と怒鳴ったけれど無視した。父が別の部屋からベランダにまわるのがわかったので、ベランダのシャッターを下までおろしてロックした。

私を捕まえることができないとわかって、矛を収めた父がベランダから静かに私を呼んだけれど無視した。父は階下に降りて行った。腹が立って泣いた。



父とのバトルは、たぶんこの一回きりだ。




誰かと、感情的に拗れたとき。
私は言い募るエネルギーが続かないので黙ってしまうほうだけれど、キラーワードはすぐに思いつく。いま、これを言ったらどうなるかな、と考える。むかむかしながら、言っちゃおうか、言ったらすっきりする?と考える。
考えるだけで口にはしない。

言ったら、きっと関係が決定的に破綻するだろうから。
ほんとに絶縁したい相手でないなら、絶縁できる関係でないなら、言わない。





父に、そういう類のことを言い捨てられたのは、やっぱり血の繋がった父娘だったからだ。言って、どんなに怒らせたとしても、大丈夫だと知ってたからだ。
甘えられる相手だったからだ。



いまでも、2階の部屋のドアに、父が蹴ってついた瑕が残っている。







コメント

ありす
2019年11月4日17:06

うんうん。と深く頷いております。

美藤
2019年11月4日19:33

ありすさん

家の急な階段を苦も無く駆け上がった若さを懐かしく思い出します(笑)

お気に入り日記の更新

この日記について

日記内を検索