糠床のはなし

　
　
ぬか漬けが好き。



中学の時、仲の良かったNの家に行くと、Nのお母さんがいつも古漬けをだしてくれた。キュウリやナスや大根、くったくたになって色も褪せてしまったくらいによく漬かったぬか漬け。それを薄切りにして中鉢にたっぷり。
M（私）に一番すっぱいのとっといたよ、と言って。

Nのお母さんのぬか床は、お嫁に来た時お姑さんから受け継いだとかでほんとうに美味しかった。Nは糠床をかき混ぜておいてと言いつけられるのが「ほんっと嫌」と言ってたけど、ふたりで古漬けぽりぽり食べながら何時間もおしゃべりした。
大きなヤカンで沸かして作った香ばしい麦茶と一緒に。

そうだ、そうだ書きながら思い出したけど。
なんで麦茶なんだっけって思ったら、昭和の漬物には季節があったからなんだね。ぬか漬けは夏の漬物。冬にはぬか床に塩で蓋をして冷暗所で休ませてた。
秋の終わりに、今年はこれで終わりって言われて出されて、なんで？ってきいて教えてもらった。

ひとり暮らしを始めるとき、糠床分けてもらおうかって一瞬本気で考えたけど、絶対腐らせると思ってやめた。
Nのお母さん、いまは認知症が進んで病院に入って4年になるって。
あの糠床、どうしたろう。Nが受け継いでないのは確かなので、もうないのかな。




コロナの自粛要請が出たとき、田舎の親戚があれこれ食材を送ってくれて。
そのなかにタッパーウエアに入った自家製のぬか漬けがあった。大根、ニンジン、キュウリ。あ、ナスも。糠がたっぷり入っていて、漬物を食べた後捨てるのもったいない気がして、気まぐれに冷蔵庫の野菜を漬けてみた。そしたら結構美味しくて。

その糠床をタネにして、糠を足して大きなタッパーウエアに移し替えた。
私のお世話は怪しいので、冷蔵庫に入れてるけど。
でもいい感じに育ってくれて、この3か月、毎日のようにぬか漬け食べている。
浅漬けの大根やキュウリ、カブを薄切りにして刻んだミョウガと和えてだすとサラダっぽくて家族も結構食べるし。
私はもうすこし漬けて酸味の増したのを。炊き立てご飯に具だくさんの味噌汁でも作れば、私は古漬けだけでメインディッシュ要らないくらい。
小腹夜食は、古漬け・ご飯・お茶がこのところの定番。

糠床も、私のお世話に馴染んでくれたのか冷蔵庫の中で安定してるし、漬かり具合の見当もつくようになった。
ぬか漬けには、“母親”のものというイメージがあって、私が漬けてもなぁ、、ってなんとなく手を出さないできたんだけど。ぬか漬けって買うと結構いい値段するし、あんまり美味しくない。4月5月時間はたっぷりあって、家のことぐらいしかすることなかったので糠床をお迎えしてみたら、なかなかよろしかった、という話。


ひと晩だけ漬けた浅漬けのキュウリなんて目が覚めるようなぴかぴかの緑色。
眼も舌もたいそう嬉しゅうございます。