赤毛のロッピは最愛の母さんの遺したバラの切り枝を持って旅に出る。
苔が生えるだけの溶岩原の北の国から、オオカミやクマのいる深い森を抜けた先の世界一のバラ園を持つ修道院を目指して。
父さんは息子が心配で、旅立ちの別れ際に「向こうに着いたら開けなさい」といって渡すのは「寝るときに父さんを思い出せるように」と、パジャマだ。初めて乗る飛行機で腹痛を起こし、着陸した先で盲腸の手術を受ける。ロッピは無事に修道院へたどり着けるのか……頼りない少年の初めての冒険…いやいや、少年ちゃうし!
ロッピには7ヵ月になる子供がいる。「あの娘、あの娘って父さんは言うけど、僕と彼女は付き合ってるとかそういう関係じゃないんだから。まあ、子どもはできちゃったけど。あれはアクシデントだったんだ」 をい?w
22歳のロッピ(あるときはダッピ、あるいはアッピ、父さんはいろんな呼び方をする)の頭の中を占めているのは、死と身体(セックス)と植物だけ。
「花の子ども」というタイトルと表紙だけで借りてきた。
メルヘン風味、ファンタジー風味かなぁと思いながら読み始めて、主人公の頼りなさにちょっと面倒くさいかなぁ~とちらちら思いながらロッピの旅に付き合う。
修道院のブラザー・トマスや彼の娘フロウラ・ソウル、そしてその母親(ロッピの妻でも恋人でもない大学生)アンナが彼の生活に登場しても、どんな物語を読んでるのかよくわからない。でもその頃には、の~んびりと遠い親戚の男の子の消息を眺めるような気分で楽しむ。
映画好きのブラザー・トマスが良い。
「一緒にノスタルジアでもどうかね」
「え、どういう意味ですか?」
「『ノスタルジア』という映画だよ。苦しんでいる人びとへの思いやりを持つには、瞳の奥ににじんだ苦しみに気づかなければならない」
遺伝学の論文を書き上げなくてはいけない24歳のアンナ。
「母親になる前にやるべきことがたくさんあると思う」
「あなたのことが信じられないほど好き。だけど私、ひとりになりたいの――あと何年か――自分を見つけて博士号を取るまで。今すぐ家庭を築くには、まだ若すぎると思う」
22歳のロッピのもとに、北の国の代表的なモチーフとなる「八弁のバラ」の枝とマリアに抱かれた幼子によく似た娘フロウラが残される。
・・・・・
2020年のジェンダーギャップ指数で153ヶ国中、121位の日本に住む私には、これはやっぱりファンタジーだったのだ。
読み終えて、解説を読むまで気づかない事ばかりだった。ロッピにイライラし、アンナに「え?」と思ったりする、その時点でジェンダーギャップ121位の国のひとなんだよなぁ。
11年連続ジェンダーギャップ指数1位で、ジェンダーロールに多様性があり、かつそれが当たり前に社会制度で保障される国では、この物語はファンタジーではなく当たり前の若い男女と家族のリアルなのだった。
原題に使われている「Afleggjarinn」という語にはふたつの意味がある。ひとつか「挿し穂」で、もうひとつは「特定の場所に続く脇道」である。日本にも挿されたアイスランドからの挿し穂が良く育ち、やがてその枝の先がどこかに繋がる道となることを、心より願っている。
朱位昌併<解説>
日本で根付くだろうかねぇ。
1975年 職場での男女格差や性別による役割分担の不平等に女性が声を上げ「女性の休日」と呼ぶストライキを決行
1980年 世界初の民選の女性国家元首が大統領に就任
2009年 同性婚をした女性首相が就任 大臣の半数が女性となる
以降、女性、子ども、ハンディキャッパーを支援しジェンダーギャップを小さくするための施策が実行される
アイスランドはちゃんとやるべきことやってきたんだよね。
挿し穂を根付かせるには、土が大事なんだね。
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