「JR上野駅公園口」
 
 
橋本治の「草薙の剣」で語られていた昭和、平成の90年のどこかにカズさんはいたかもしれないと思う。
オリンピック村の建設現場でネコを押していたのがそうかもしれないし、文化会館の軒下に立っていた男が遠景に映っていたかもしれない。
ホメロスが語れない、平和で貧しい時代の退屈で平凡な不幸。
カズさんのカズはきっと昭和の「和」だ。


「おめえはつくづく運がねぇどなぁ…」
そうかもしれない。そうなのかもしれないけど。ただそれだけのことなのかもしれないけど。
一生懸命に、家族のために働き続けていつも疲れて、自分の人生に馴れることのできなかった男には呪いのようだ。



「草薙の剣」を柳美里の業の筆で書くと「JR上野駅公園口」になるのかな。
「草薙の剣」の人生もあまり、いやまったく幸せそうではなかったけど、柳美里はほんとに不幸しか書かないね。
柳美里って、臓腑を絞るような憤りを抱えてる気がするんだけど、たぶん柳美里自身は、それが常態すぎて慣れてしまってるんだろう。だけど、それを浴びる読者はほんとに疲れるよね。
柳美里を読むって、ある意味自虐? そのくらいカタルシスがない。

でも、必ず、書き写しておきたいと思う表現があるのでついつい読んでしまうんだよねぇ。



あ、不幸文学にカタルシスを求めるのは間違いか。








コメント

hana
2021年7月24日22:30

美藤さま^^

> あ、不幸文学にカタルシスを求めるのは間違いか。

間違いかどうかはわからないけれど、確かに彼女の作品にはカタルシスないですね。
疲労困憊して逆に抑圧感が残りました。

美藤
2021年7月24日23:31

hanaさんも書いてらっしゃいましたけど、ほんとに読むのに体力要りますよね。
長い小説でもないのに。
 
柳美里の作品に、幸せな結末ってあるんでしょうか?シアワセな物語を書くことあるのかなぁ?なさそうですね(笑)
だけど、彼女の描く世界の断片や言葉はいつも心に食い込んできて、残るものがあります。私はこういう読書がしたいんだと思います。どうしようもない不幸を柳美里が紙の中に閉じ込めておいてくれるから良かった。




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